2023年2月24日、NHK(日本放送協会)の郵便法違反に関するニュースがメディアで大きく報じられましたが、そもそもNHKと郵便業務を担う日本郵政はどちらも同じ総務省の所管という間柄であり、その中でなぜNHKは郵便法に違反してしまったのか? そしていったい何が問題だったのでしょう?
今回のNHKの郵便法違反は、販促等でDM(ダイレクトメール)を利用する企業にとって決して無関係な話しではなく、むしろDM発送のご担当者様には必ず知っておいて頂きたい「信書」の定義とその取り扱いは重要なポイントです。
ここでは、NHKの郵便法違反の事実と、そこから学ぶ信書とDM(ダイレクトメール)との関係について、はじめての方にもわかりやすく説明します。
DM発送をご検討の際には、ぜひお役立て下さい。
信書の誤った送達による郵便法違反にご注意下さい!
身近な生活にも関係している「郵便法」
田舎に住む母親が、上京した息子へ宅配便でお米と食材を送る。
届いた荷物を息子が開けてみると、中には封がされた母親からの手紙が入っており、
そこには息子を心配する母親の心情が綴られていた・・・
テレビドラマなどでよく見かける場面ですが、実はこれが「郵便法」という法律に抵触するのをご存知でしょうか?
このとき母親が息子に宛てた手紙を「信書」といい、本来ならこの手紙は(荷物とは別に)切手を貼ってポスト投函(普通郵便)するのが正解で、宅配便の荷物と一緒に送ってしまった点が問題なのです。
さて、まずは先に述べた「信書」について詳しく調べてみると、所管する総務省の定めたガイドラインには次の様にあります。
「信書」とは、郵便法第4条第2項において、
「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」であり、
「特定の受取人」とは、差出人がその意思の表示又は事実の通知を受ける者として特に定めた者のこと。また、「意思を表示し、又は事実を通知する」とは、差出人の考えや思いを表し、
又は現実に起こり若しくは存在する事柄等の事実を伝えることである。
総務省のガイドラインを読んでもわかるように、
母親が宛てた手紙は、息子という特定の受取人に対し、自身の考えや思いを綴った文書であり、
これは紛れもなく「信書」に該当します。
宅配便での信書送達は郵便法違反
郵便法(昭和22年法律第165号)(抜粋)
第四条(事業の独占)会社以外の者は、何人も、郵便の業務を業とし、また、会社の行う郵便の業務に従事する場合を除いて、郵便の業務に従事してはならない。ただし、会社が、契約により会社のため郵便の業務の一部を委託することを妨げない。
(2) 会社(契約により会社から郵便の業務の一部の委託を受けた者を含む。)以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。二以上の人又は法人に雇用され、これらの人又は法人の信書の送達を継続して行う者は、他人の信書の送達を業とする者とみなす。
(3) 運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。ただし、貨物に添付する無封の添え状又は送り状は、この限りでない。
(4) 何人も、第二項の規定に違反して信書の送達を業とする者に信書の送達を委託し、又は前項に掲げる者に信書(同項ただし書に掲げるものを除く。)の送達を委託してはならない。
第七十六条(事業の独占を乱す罪) 第四条の規定に違反した者は、これを三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
上記(3)(4)にある通り、郵便法では運送営業者の信書の送達を禁じており、また同様に、運送営業者に信書の送達を委託することも禁じています。今回の例は、母親が息子(特定の受取人)に対し、自身の思いを綴った手紙(信書)を荷物と一緒に送ってしまったわけですが、この行為こそが郵便法違反に該当するというわけです。
ちなみに、今回のケースについて、宅配最大手のヤマト運輸に確認したところ、「お荷物の中に手紙(信書)が含まれていることを事前に知っていたなら、そもそも配達の引き受けを拒否します」との回答でした。さらに、ホームページのよくあるご質問(FAQ)欄にも、「お荷物に関わる添え状・送り状は、封をしていなければ送れます。その他の信書は、送れません。」との記載があります。
なお、貨物の送付と密接に関連し、その貨物を送付するために従として添付される無封の添え状・送り状も信書に該当しますが、実は、これについては貨物に添えて送付することが許されています。(郵便法第4条第3項)
現在、信書を送る手段として法的に認められているサービスは次の通りです。
◆日本郵便・・・定型郵便、定形外郵便、レターパック、スマートレター
◆佐川急便・・・飛脚特定信書便
◆ヤマト運輸・・信書を送れるサービスは扱っていない
それでも、宅配便の荷物の中に手紙を入れて送った経験のある方は意外と多いのではないでしょうか。
そもそも、それが郵便法違反にあたることなど知る由もありませんし、
荷物の配送を請け負う宅配業者も手紙(信書)が含まれていることを告げられていないので非があるとはいえません。
ですから、一般の方ならまず郵便法違反を問われることはないように思えますが、これが企業間取引になると話が違ってきます。中には、信書の送達による郵便法違反容疑を理由に差出人や企業を訴える変わり者がいて、過去にはこんな実例があります。
グッドウィルの郵便法違反容疑
人材派遣大手のグッドウィル(2009年12月31日付で解散)は、
2007年7月、データ装備費の 返還を伝える文書約80万通を派遣スタッフ宛にヤマト運輸のメール便(当時)で送付。
この文書は、「信書」である可能性 が高い(郵便法違反)とみられていたが、グッドウィルもそれを認め、
総務省に対し再発防止策を申し出たことから告発は見送られた。埼玉県職員の郵便法違反
2009年6月、埼玉県の女性職員が「信書」に該当する文書を、ヤマト運輸のメール便(当時)で送ったところ、
その文書を受け取った男性が郵便法違反容疑で埼玉県警に告発。
捜査の結果、埼玉県と女性職員、ヤマト運輸とその男性従業員が書類送検された。
安くて手軽だからといって、信書に該当する文書をメール便や宅配便等で送ってしまうと、
送った側に認識がなくても悪意をもった受取人がその事実を逆手に取る場合だって考えられます。
ちなみに、ヤマト運輸が平成27年3月末をもって旧クロネコメール便を廃止し、
現在のクロネコDM便に取扱いを代えたのも信書送達のリスクが大きく関係しています。
というのも、それまでのクロネコメール便は一般個人でも利用できたため、
メール便で信書を送ってしまうケースが多々見られました。
ヤマト運輸としては、郵便法違反の認識がない利用者が容疑者になるリスクを防ぐため、
個人でも利用できたメール便を廃止し、その代替サービスとして、法人契約限定のクロネコDM便をスタートさせたのです。
クロネコDM便は、事前に内容物を確認できるカタログ、パンフレットなどの「非信書」に限定したメール便サービスで、
現在では企業のDM発送にかかせないものとなっています。
NHKの郵便法違反から学ぶDM発送の注意点
郵便法違反で総務省がNHKに行政指導
NHKの郵便法違反は、2022年12月14日に各メディアで報道されており、
当時NHKは郵便法違反に該当する送達物が2,070万通あったことを所管の総務省に報告していました。
ところが、翌年の2023年2月、総務省によれば、NHKからの当時の報告には把握漏れがあり、
「(郵便法違反に該当する送達物は)実際には309万通も多かった」との発表が改めて大きく報じられたのです。
-2022.12.14 読売新聞ニュース-
NHKが郵便法違反、総務省が行政指導…受信契約促す「信書」をポスティング業者へ委託
-2023.2.24 NHKニュース-
郵便法違反の報告漏れでNHKに行政指導 総務省
引用元:-総務省 報道資料-
NHKの郵便法違反はここが問題だった
郵便法違反の事実について
令和4年12月14日付、総務省がNHKに宛てた
「日本放送協会の放送受信契約に関する文書の送達について(指導)」と題する公表資料には、
郵便法違反の事実について次の通り記載されています。
放送受信契約の締結が確認できていない特定の受取人に対して、期日を指定して放送受信契約の締結に係る申込書等を返送すべき旨の貴協会の意思を表示したものであって、特定の受取人に対する差出人の意思を表示したものであり、「信書」に該当すると認められる。
引用元:日本放送協会の放送受信契約に関する文書の送達について(指導)-総務省 報道資料一覧-
信書か否か、不安があれば必ず事前に確認
今回、郵便法違反を指摘されたNHKの文書ですが、そもそもいったいどこが問題だったのでしょうか?
1.特定の受取人宛て
文書を送る対象者として「放送受信契約の締結が確認できていない人」という特定の条件が付いています。
また、文書の現物を入手できていないのでこの点は憶測になりますが、
おそらく封筒の宛名だけでなく文書自体にも受取人の名前が記載されていたのでしょう。
たとえば、よく街頭で見かけるティッシュ配りですが、
性別や年齢層などおおまかなターゲットの絞り込みはあるものの、基本的には不特定多数の人に同じものを配っています。
これがもし仮に、ティッシュに受取手個々の氏名が載っていたとしたらどうでしょう?
受取手を特定して配っていたということになり、この点が信書の判断のひとつになるのです。
2.期日の指定と意思表示
文章には、受信料の支払いと申込書の返送を求めるというNHK側(差出人)の明確な意思だけでなく、さらに返送期日まで表示されています。
この点からも信書に該当するのは明白ですし、日本郵便のホームページにも、
「商品の購入等利用関係、契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている文章」は信書にあたると明確に示されています。
引用元:日本郵便
信書に該当するか否かについては、信書の定義だけで判断できない曖昧なケースというのがあります。
そのため、日本郵便や総務省は、「信書に該当するもの」「信書に該当しないもの」を具体的に示していますし、
ネット上にも信書についての解説が数多く掲載されています。
また、どうしても不安だという場合には、事前に郵便局で確認を取るという方法もあります。
少なくとも、今回NHKが郵便法違反を指摘された文書は誰が見ても明確な信書であり、
郵便法や信書に関するNHK担当者の知識不足を疑われても仕方ないでしょう。
引用元:日本郵便
NHKから学ぶ郵便法違反のリスク
ここまでNHKの郵便法違反をもとに「郵便法」や「信書」について説明して参りましたが、
販促等でDM(ダイレクトメール)を活用する企業のご担当者様には、
特に「信書」の定義や取扱いについて必要な知識を身に付けて頂くことが大切だと思われます。
また、それをもとに信書の取り扱いを社内でも周知徹底して頂ければ、
企業における郵便法違反のリスクを防げるのではないでしょうか。
ダイレクトメールが「信書」と見做されるケースも!?
DM(ダイレクトメール)を活用されている企業のご担当者様の中には、
「DM(ダイレクトメール)は信書ではない」と勝手にそう思い込んでいる方がいらっしゃいます。
しかし、それは大きな間違いで、DM(ダイレクトメール)であっても信書と見做されるケースが多々あります。
総務省が公表している信書に関するガイドラインを見ると、ダイレクトメールについても以下のように分類しています。
「信書に該当する」ダイレクトメール
- 文書自体に受取人が記載されている文書
- 商品の購入等利用関係、契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている文章
「信書に該当しない」ダイレクトメール
- 専ら街頭における配布や新聞折り込みを前提として作成されるチラシのようなもの
- 専ら店頭における配布を前提として作成されるパンフレットやリーフレットのようなもの
引用元:DMマーケティングラボ
これを見ても明らかなように、ダイレクトメールといっても仕様によっては「信書」と見做されるケースがあるのです。具体例でいうと、
- 案内状やお知らせの文章内に受取人名が記載されている場合 ➡ 信書
- 案内状やチラシ、パンフレット等に、受取人の商品購入履歴や購入の際に付与されるポイントなど特定の情報が記載されている ➡ 信書
要は、内容物に特定の個人に向けた情報や告知、案内が入っているものは信書で、
不特定多数に送る同一の内容物は信書にあたらないと考えても良いでしょう。
なお、信書に該当するか否か不安な場合は、事前に関係機関に確認することを強くお勧めします。